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特別寄稿

やきとり




17期校友会 Web Site
東松山といえば・・・「やきとり」でしょ
学び舎の街・東松山のご紹介です。シリーズでタウンガイドを掲載します!ご期待下さい。
私  「親父さん、ビール」
おやじ「やきとりは?」
私  「今日焼いている種類を全部食わしてよ」
おやじ「レバー、たん、カルビ、軟骨、白、つみれ どれでも1本100円だ」
私  「白って何なの」
おやじ「腸のこと、内臓だね。色が白っぽいのでシロと言っているんだ」
私  「ついでに、もつ煮も」
冷えたビールを一口飲み下しながら、カウンターに目をやる。

 この4人の先客は何者だろう。開店と同時に座り込んだに違いない。こんな時間から飲み屋でチビチビと飲んでいる人間って何だ。現役ではない、年金暮らしで無聊をかこっているのか、そしてこれが唯一の楽しみなのか。隣の男、2杯目のウーロンハイをすすりながら、おかみさんと何やら熱心に話し込んでいる。その隣の男も2人の話の中に割り込もうとするのだが、上手く滑り込めない。その苛立たしさに唇を噛み、横を向く。そのすねた横顔に、年老いて、人生の甘いも辛いも知り尽くしたはずなのに、今なお自己主張と自分を無にすることの出来ない男の業を垣間見る。
 おかみさんが、焼きあがったレバーを皿の上に置いて行った。わずかな塩味と味噌の甘味と香ばしさが口の中で混じりあい、旨い。戸を開けて、男が入ってきた。私の隣の席に座って、ウーロンハイを飲み、レバーを手に、独り言を語るかのごとく私に向ってつぶやく。「いつも、此処でレバーを2本食べて、ウーロンハイを2杯飲むんですよ。3杯目は家に帰って飲むんです、此処で3杯目を飲んで帰ると女房に叱られるんですよ。」「何で、叱られるの ? 」訊ねようと思ったが止めた。どんな答えが返ってこようとそれだけだ。それよりも、「叱られる理由」を勝手に想像し、おどおどしながら妻の顔色を伺う男の姿を思い描く事のほうが酒の味を濃くしてくれる。

 おかみさんが「たん」を持ってきた。そこそこに歯応えがあり、食しているとの実感がする。
 3番目に座っている男は一言も話さない、隣の人にも関心を示さないし、店の中を眺め回すでもない。自分の世界に埋没し、何かを考えている様で、何も考えていない。何かにこだわりを持っているようで、何ひとつ執着心のない、そんな表情で口にコップを運ぶ。彼の人生の中に彼をしてこんなにまで寡黙にしてしまう悲しい出来事があったというのか。彼の席の前のコンロから立ち上る煙は、彼の心を包み込んで昇って行った。心の安寧を探しに行くかのように。

 軟骨が来た、固い。噛み潰そうとするが潰れない、過ぎ去った人生のいじましさを踏み潰そうとして踏み潰せないそんないじましさが口の中に広がる。
 彼が指を立てて親父を見る、金を払って出て行った。私も、酔いが少し回ってきたようだ。その男を追って外に出る。日はすっかり暮れて、風は冷たい北風に変わっていた。前を歩く男の背中から「やきとり」の匂いが風にのって漂ってゆくのが見えた。